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愛媛県松山市道後鷺谷町大和屋別荘
湯のまちの  俳句の宿で  至福のとき。 1 2

正面入口に掲げられた欅の看板は、明治時代に松山中学の先生が書いたもの。宿に到着すると同時に、「やまとやべっそう」と染め抜いたハッピを来た玄関番の男性が、サッと荷物を持って案内してくれる。


どの部屋にも俳句や俳画の掛け軸が掛けてあり、文学の香りを添えている。季節ごとの掛け換えや調度品の管理は、地元では風流人として知られる社長の仕事だとか。経営者自身の美意識の高さが宿の空間にも自然に表れている。


何気なく飾ってある軸は、すべて真作。俳聖として知られる正岡子規であるが、地元愛媛でも直筆を保管している人が少ないらしく、これは珍しい品。
 そこに泊まることが、旅の目的となりうる宿。道後でそんな宿を挙げるとしたら、筆頭が大和屋別荘だろう。四国の一大観光地として大型のホテルが立ち並ぶ中、数少ない本格的な数寄屋造りの建物が目を引く。温泉街から奥まった場所に、ひっそりとたたずむ別荘の名にふさわしい静かな宿である。

 予定より少し早目の到着。打ち水でしっとりと濡れた石畳と盛り塩の出迎えを受け、掃き清められた玄関に一歩足を踏み入れると、小気味良い旅の緊張感が体を走る。

 玄関にあがったところで、飾られていた軸に書かれた正岡子規の名が目に留まった。聞けば、どこかの句会で子規が句評をしたためたものらしい。もちろん直筆である。俳句の宿と銘打つこの宿には、山頭火、河東碧梧桐、下村為山、酒井黙禅、高浜虚子、夏目漱石などの俳画や掛け軸が廊下やロビーのそこかしこにさりげなく飾ってある。そのすべてが真作で、宿というよりどこかのギャラリーにいるような感さえ覚える。

 この宿は元を辿れば、明治元年創業の老舗旅館。昭和十二年に本店とは別に料理旅館として現在の場所で営業を始め、その後昭和六十三年に現在のような純和風数寄屋造りに改装し、俳句の宿として看板を掲げるようになった。

 「その昔、道後を訪れた文人墨客たちは、宿屋の主人の求めに応じて気が向けば筆をとってさらさらと絵や俳句を画帖にしたためたもの。時にはそれを宿代にすることもありました。ですから、初めからうちにあったものもありますが、後々社長が趣味で集めたものや知人から譲っていただいたものも多いんですよ」と、話してくれたのはふくよかな笑顔の女将・奥村時雨さん。風流な宿は、女将の名前まで粋である。俳句の宿のうわさを聞き付けてか、最近では俳人の山口誓子や黛まどかなどが訪れているという。

 通された部屋の床の間には、「分け入っても分け入っても青い山」の軸が。自由律の俳人として知られる山頭火の句の中でも特に有名な一句。その直筆にここでお目にかかれるとは、思いもよらなかった。

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※文・写真は『四国旅マガジンGajA009号』(http://www.kk-spc.co.jp/gaja/)からの転載です。基本的には発売した2001年8月1日時点のデータですので、現在は変更になっている場合もあります。なお、住所・電話・料金は2005年4月15日現在のものに更新しています。あらかじめご了承ください。
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