
焼きサバ寿司 1,050円(お食事処 あしずり)


清水さばの味噌チーズ鍋 950円(食酔亭元屋)※冬期限定

魚飯 1,000円
(土佐清水さかなセンター足摺黒潮市場※データはこちら)
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9月から年をまたいで4月まで、四国を代表するブランド魚「清水さば」は、最高に美味しい時期を迎える。もともと脂のりのいい魚だが、旬の脂のりは大トロだって目じゃない。ビリビリを味わえば、その旨さが理解できるはずだ。
ビリビリとは、土地の言葉で「とれたて」を現す。ビリビリなら刺身。土佐清水や周辺にある料理店、それも清水さば取扱店のプレートやのぼりが立つ店に行けば、間違いない。待つほどもなく、剣にした大根の上に、薄切りにした刺身が盛り付けられてくる。漁師町らしく、盛りつけは実質本意。気取ったあしらいもないが、むしろそんなものは不要。紅色につやつやと輝く身は、それだけで充分美しい。この赤色は、鯖がまだ死後硬直していない証拠だ。箸にとり、ちょんと醤油を付ける。途端に表面に脂が広がる。半端じゃない脂のりだ。口に運ぶと、ねっとりとした食感。特に皮ぎしはバターを思わせる濃厚さなのに、そこには一点の濁りもない。だが、それ以上に驚くのは歯ごたえだ。堅い、のではなく、押し返すような弾力なのだ。だからといって、噛み切れないのか、というとそうではない。抵抗しながらも、スパッと身がほどける。今まで幾度となく食べた鯖とは、根本的に味が違う。魚の生命力がそのまま体に取り込まれていくような気持ちにさせられた。この味わいは、「ピチピチ」でも「ピンピン」でもなく、やはり「ビリビリ」だ。
午前2時、土佐清水漁港からは、100隻以上の漁船が太平洋へと繰り出す。夜陰の中の一本釣りや縦縄漁は、漁師と鯖の真剣勝負。だが、漁師にとって本当の試練はこれからだ。釣り上げたら躊躇する間もなく、鯖は船内の冷却水槽に放たれる。鯖は「生き腐れ」と言われるほど、鮮度を保つのが難しい魚。人間の手にふれただけで、その部分が身焼けしてしまう。だからなるべく手をふれず、迅速な作業が求められるのだ。
空が白み始める頃、続々と港に漁船が帰ってくる。漁港には市場が直結しており、漁師は小走りに、鯖を直径5メートルはある円形の活水槽に運び入れる。それでも、魚は釣り上げられることの環境変化により、大変なストレスを感じている。清水漁協ではそのストレスを緩和するために、必ず丸一日は泳がせるのだそうだ。
翌日、鯖を締める様も圧巻。買い付ける料理人が控えるそばで、2人1組となった漁協職員が電光石火の作業を繰り広げる。1人が水槽の中で悠々と泳ぐ鯖を網ですくい上げ、バケツに投げ入れる。魚の勢いは「ビリビリ」以外の何ものでもない。魚体が踊り、今にも網やバケツから飛び出しそうだ。それを軍手を付けた手で押さえて、動きを休めない鯖の鰓の辺りに一瞬に包丁を入れる。どくとくと血があふれ、ようやく鯖は大人しくなる。その間、わずか数秒。活〆の冷水にサッとつけた鯖を、氷を敷き詰めたクーラーボックスに納め、料理人は小走りに去って行く。この市場で、悠々と歩いている人は誰もいない。ビリビリな人ばかりだ。
料理人は土佐清水市の隣、中村市の人。店ではビリビリの清水さばを使った刺身やたたき、しゃぶしゃぶのほか、一風変わった料理を出している。清水さばの味噌チーズ鍋だ。小鍋の中には、白味噌、鰹の白ダシ、クリームチーズを混ぜた特製の白濁スープがはられている。この鍋には敢えて「ビリビリ」ではなく、鯖全体に脂がまわった、1日寝かせた鯖を使う。ビリビリでは、身が引き締まりすぎているためだ。冊に卸した切り身をバーナーで炙る。すると表面にはたらたらと溢れるほどの脂がしたたり始める。そのまま食べたい衝動に駆られるが、これはあくまでも下ごしらえ。ふつふつとスープの表面に泡が立ち始めたら、野菜や茸と一緒に鯖を沈める。充分に火が通ったら、スープとともに味わう。刺身のプリプリした食感も良かったが、鍋に仕立てた鯖の、ふうわりととけるような味わいにはまた違った喜びがある。料理人は土佐清水の出身で、関西で10年間日本料理の修業をして、故郷の近くで店を開いた。清水さばにぞっこん惚れ込み、自らの創意工夫でこの新たな味わいをつくりだした。無論、ビリビリの鯖料理も旨い。
ビリビリは食感が命だが、加熱調理した鯖は旨みが命。別の料理屋で焼きサバ寿司に出会い、そのことを痛感した。鯖の旨みをより深く味わえるひと品だ。プリッと肉厚な焼き鯖は、表面にこんがりと焼き色がついていて、香りもいい。心憎いことに、裏面にも焦げ目を付けている。噛みしめると、はりつめた身肉からプシュっと脂があふれた。鯖の塩焼きは今までに何度も食べたが、それとはまったく別物。この地方には酢締めにした鯖を丸ごと使う、鯖の姿寿司という郷土料理があるが、姿寿司は翌日、飯に魚の旨みが馴染んだどころで軽く炙って食べるのも美味しい。これに目を付けて、端から焼いた鯖の寿司をつくったのだ。
土佐清水の漁師飯に「魚飯」というのがある。要は魚の炊き込みご飯。魚は何でもいいが、清水さばの魚飯が絶品だ。ほぐした鯖の身が入った飯を、まず1杯目は熱々で。2杯目は薄味のダシ汁をかけて。残った飯は結びにしてもいい。飯にしっかりと染み込んだ鯖の濃厚な味は、冷えても損なわれることはない。
鯖は真鯖と胡麻鯖の2種あるが、清水さばは後者。南海から流れてきた黒潮が、日本で最初にぶつかる足摺岬沖で水揚げされる。清水さばの旨みは、足摺沖の速い潮の流れと豊富な餌によって育まれる。体の表面には大小の斑点が密にあるが、これが胡麻鯖という名前の由来だ。体長は50センチほどで、丸々と肥えている。大きなものは1キログラムにも及ぶ。土佐清水漁業協同組合では1匹600グラム以上ある「よう太っちょる」ものしか、「清水さば」として認めていない。今や、全国的にも人気ブランド魚となった清水さば。土佐清水市役所には「清水さば係」という部署も誕生しており、官民一体となってピーアールや輸送方法の改良に取り組んでいる。お陰で、活〆の清水さばの宅配も利用者が急増しているが、この魚は海と魚をよく知る料理人がいる地元で食べるのが、やっぱりいい。 |