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「県境の天然うなぎ」「県境の天然うなぎ」








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鰻の古里
 鰻の古里は、実はいまだに解明されていない。遡行性が強く水があればどんな細い水路でも上っていくので、相当に山深い所にも棲息する。だが、雌雄の判別がつきにくく、稚魚も見られないので、山芋が変じて鰻になるとか、露から化成するとか、ヨーロッパでは牡馬の尾より化成するという説が永く信じられてきた。胎生説が唱えられた時代もあったらしい。
 鰻は古代ギリシャで既に食用にされていたし、我が国では大伴家持の古歌に

 石麻呂に 我物申す 夏痩せに
 良しというものそ 武奈伎捕り喫せ

というものがあって、奈良時代には食材にされていた。そんな古いつきあいの鰻の生態が、どうやら単純な淡水魚ではなく海で産卵するらしいと判ったのは、18世紀も末になってのこと。大西洋の西部や地中海にいる白魚に似たものが鰻の稚魚らしいとの説が唱えられ、更に1世紀を経た1893年になってそれが科学的に証明された。
 ヨーロッパの鰻は北アメリカの東海岸、ベルムダス群島南方の水深2000メートル辺りの深海が産卵場所と推定され、中国や日本の鰻はニュージーランド付近の深海がその古里だろうと言われている。

遡上
 鮭や鮎は海で成長し、古里の川に遡上して産卵をする。孵化した稚魚は川を下り、海で成魚となって再び川へ回帰する。鰻はその逆で、産卵が近づくと深海に戻り、そこで孵化する。だから、その生態は永らく人類にとっての謎であった。現在でも、稚魚がどの程度の期間を深海で過ごすのか(5ヶ月とも3年ともいわれている)、遡上した鰻が何年を経て再び産卵のために川を下るのか、いずれも確たる定説はない。
 俗に鯉の滝昇りというが、実力は遥かに鰻が優っていて、滝はおろかダムでも絶壁でも、あれば迂回して草むらや泥土を伝って上をめざす。鰻の強靱な生命力は、大伴家持を持ち出すまでもなく、体力回復や補精に卓効ありと信じさせるに充分であったろう。
 さて、夏バテの季節である。ここは天然鰻を食って精をつけよう。それには、こちらも四国の河川を愛媛と高知の県境辺りまで遡上しなければならない。

県境
 愛媛県松野町から広見川沿いに進むと、鰻の寝床みたいな、離合も危うい一区間を過ぎて、高知県西土佐村になる。広見川は江川崎で四万十川に合流するのだが、この一帯で辛うじて天然鰻の漁が今も行われている。昭和40年代なら遊び半分でいくらでも獲れた天然鰻が、近年はめっきり数が減って、おおむね貴重品になりつつある。
 四万十の川漁師に渡りがついて、早朝5時に川へ出向いた。夏の朝5時はもう明るい。川風が爽やかで、 一日の始まりとしてはこの上もない気分だが、河原に釣り師が二人、川面には舟が数艘出ていて、さて誰に声を掛ければよいものやら。迷っていると、目印の橋の下の岩場に人影が現れ、何やら紐を引いて筒を揚げ始めた。あれか、と大声で呼んでみるのだが、耳が遠いのか反応がなく、むこうの鼻歌ばかりが聞こえる。仕方がないので崖下へ廻ってみた。
 仕掛けた塩ビ製の筒に入っているのは、川海老だった。手長海老ともいう。「鰻は?」と問いかけても何だか要領を得ない。あきらめて、耳の遠い老人と世間話をしながらぼんやり川を見ていると、舟が一艘寄ってきて声を掛けてくれた。お目当ての川漁師はこっちの人だったのだ。

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※文・写真は四国旅マガジンGajA013号』(http://www.kk-spc.co.jp/gaja/)からの転載です。基本的には発売した2002年8月1日時点のデータですので、現在は変更になっている場合もあります。なお、住所・電話・料金は2005年7月15日現在のものに更新しています。あらかじめご了承ください。
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