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5月いっぱいは「うるか」で我慢をする。鮎は、まだ無い。
鮎の魅力はその香りと腸の苦味だと思っている。要するに、人間も歳月の苦味を経た後でなければ、真のところは判らない味だ。食うたびに、ああ今年もありつけた、と思う。あと何度口にすることができるだろう。そんな思いが年々深くなる。
その鮎が6月までは無い。ご承知のようにうるかは鮎の腸の塩辛だ。
特に名を秘す川に、これも匿名の鮎師がいて、この男が自家用に作るうるかをほとんど奪うようにして毎年入手する。9月に入手した塩辛は、年を越して元旦に最初の箸をつける。それまでは前年のものを食いつなぐ。つまり夏の終わりに一年分のうるかをその鮎師から確保しなければならない。駆け引きには智恵を絞り心を砕く。金品は一切受け取らぬ相手だから尚更だ。
執着するのは、旨いからだとしか言いようがない。市販品と何が違うか。憎たらしくも心やさしい鮎師は、「食ってる苔が違うんよ」とだけ言う。それだけとは思えないが、それだけのような気もする。たっぷりと岩苔を食った腸の香りと苦味が、くっきりと生きている味、としか言いようがないからだ。
いかな鮎好きでもうるかが常食とはいかない。3日に1度、週に2度、ちびちびと舐めるように食うから1年保つのだが、難しいのは5月の連休を過ぎたあたり、鮎漁解禁近しとなってから、まだ無い鮎の代わりにうるかを食う、この時のセーブの仕方だ。
人間とは浅ましいもので、口福の欲に際限があっても目の前の物に自制は利き難いから、まもなく鮎解禁、と思った途端にうるかの在庫管理に甘えが生じる。だから毎年、5月は悩ましい。早く6月になって、思うさま鮎を食いたい。
鮎が本当に旨いのは土用を過ぎてからだ。理由はもっぱら餌の関係である。秋、河口近くの岩陰などに鮎は産卵をする。卵は約2週間で孵化し、稚魚は海へ下る。冬のあいだを海で過ごした鮎は、翌春故郷の川をめざして移動を開始する。この間は小動物を捕食するので、鮎は鰯やイカナゴなどと似たような味がする。成長して川に戻った鮎は、不思議に岩につく苔以外を口にしない。食えば苔の香りがする道理だ。
鮎が成魚になる時期を、漁の解禁日とするわけだが、実をいえば梅雨季は水が濁るので鮎は充分に苔を食えない。たっぷりと苔を食って肥った7月半ば頃からが、鮎の旬だ。
梅雨時期の鮎なんてさしたるもんじゃない。これをすっぱい葡萄の論理という。そう悟ったのは、大洲市から「鵜飼いに来ないか?」と誘いがあった途端に腰が浮いていたからだ。梅雨のさなかだというのに。
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※文・写真は『四国旅マガジンGajA005号』(http://www.kk-spc.co.jp/gaja/)からの転載です。基本的には発売した2000年8月1日時点のデータですので、現在は変更になっている場合もあります。なお、住所・電話・料金は2005年5月15日現在のものに更新しています。あらかじめご了承ください。
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