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菜の花が咲き土筆が顔を出して、筍が店先に並ぶと、陽気に誘われ気分がふわふわしはじめる。田舎を旅して山菜を思うさま食いたい。
今年はもうタラの芽も蕗の薹も初物を食った。が、それは青物屋の店頭で買ったもの。少し時期は遅いけれど、山間の田舎町へ旅すれば、まだ生り物にお目に掛かれるかもしれない。要はフレッシュにありつけないかと考えるわけだ。
今回はそんな田舎町を探して訪ねることにした。山菜をただ食うだけでは芸がないから、土佐の田舎寿司と称するものを追いかけてみたい。
となるとまず思い浮かぶのは土佐の日曜市。あそこにはこの時期山菜があふれ、寿司や饅頭の類もちらほら並んでいたような。そこから先は、幸いなことに葉山村に知人がいる。聞き合わせてみると、田舎寿司なら作り手がいるそうだ。いざ、出掛けるとしよう。
それにしても田舎寿司という呼称、元はなんと称したものか。各家庭ごとに作ったとすれば、自ら田舎寿司と呼んだとも思えない。商売上のネーミングのような気がするな。
良く晴れた日曜日の朝、陽気のせいか市は人であふれかえり、まっすぐ歩くのも難儀なほどだ。お目当ては田舎寿司なので、脇目もふらず、といいたいところだが、トマトや蕗やうど、カマスの開きや漬け物等々が目を引いて、とてもすんなりとは歩けない。
寿司を店先に並べているのは十数店あるようだ。それも店によってバラ寿司あり巻き寿司あり押し寿司あり、いずれも自家製の手作りらしい。サバの姿寿司がひときわ目を引く。これを少し炙って食うと乙なものだが、今回は狙いが違うので渋々見送って、ネタの品揃えが一番豊富な店の前に立つ。
にぎり寿司風の盛り合わせで、ネタを列記すると、筍、椎茸、みょうが、高菜、こんにゃく、昆布といったところに、太刀魚が1カン入れてある。これを2パックと、ついでにカマスの姿寿司を買うと、出来立ての饅頭を3個おまけにつけてくれた。こちらはよもぎや南瓜が使ってある。
店は秋沢美智が嫁とふたりでやっており、もう20年にはなるそうだ。秋沢の在所は高知市内だが、家業は農家で主に米を作っている。最初は農産物をあれこれ並べて店を出していたのだが、片手間に作って売った寿司が評判で、今ではほとんどそっちが専門になった。一日に150パックほどは売るというからすごいもんだが、そのかわり朝は2時からの仕込みになる。確かにこれだけのネタを揃える手間は大変だろう。
「なあに、週に1回じゃから」と豪快に笑う、元気な婆ちゃんだ。
ポイントは柚子をたっぷり利かせること。そういえば「ゆずの寿司」というネーミングで売っている店もある。元はそう呼んだのかもしれない。ネタの筍はハチクを時期に大量に採って、その場で節を抜き茹でて塩漬けにして保存する。そっちが専業の人もある気配だ。ハチクを筒のまま、酢飯を詰めて輪切りにしたのが原形らしい。あとは出盛りの物をあれこれ使う。「今はみょうがが高おて、みょうがだけくれ言う人もおって困るがよ」。
そのみょうがは紫蘇入りの酢に漬けて色を出す。しゃりっとした歯ごたえが残って、独特の香りが寿司に良く合う。なるほど柚子の香がしっかり利いていて、意外にさっぱりと薄味だ。店の裏手に廻って早速食いはじめたら、婆ちゃんが自分用の椅子をさっと提供してくれた。
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※文・写真は『四国旅マガジンGajA012号』(http://www.kk-spc.co.jp/gaja/)からの転載です。基本的には発売した2002年5月1日時点のデータですので、現在は変更になっている場合もあります。なお、住所・電話・料金は2005年4月15日現在のものに更新しています。あらかじめご了承ください。
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